新潟日報5月3日 朝刊 グローバルにいがた 国際交流拠点からに (FromNY) 受け入れること大切 が掲載されました。
(以下新潟日報ホームページより引用。)
人々の関心や話題が新型コロナウイルスに乗っ取られてもう1年以上になる。ここニューヨーク(NY)も新型ウイルスの「震源地」の一つとして世界に報じられた。
私はNYに住んで約30年になる。思い起こせば、約20年前に「9・11」が起きた。多くの人々が傷ついた。その事件をきっかけに、私は人の優しさを再発見した。日本の和紙の存在にも出合い、力をもらった。そして、いくつかの作品を作るようになった。
NYという街は、私にいつも新しい試練を与えてくれる。生きるということは元来そういうものかもしれないが、今回のウイルス禍は100年に一度の災難といわれている。
今は多くの人々がそうであるように、日々の暮らしの随所に不便さを感じる。例えば、私はお客さんの言葉や表情から作品を練り上げていく。しかし、新型ウイルスが流行してからというもの、マスクで相手の顔の半分しか見えなくなった。
口元が覆われていると人の気持ちを読みにくく、真意を探るのは難しい。私の仕事は「相手が半分作る」といっても過言でない。しかし、肝心な情報が入ってこない。顔の表情が大切な情報を発信していることが分かった。
あらゆるものが必要か、不必要かで判断されるようになった。私がなりわいとしている和紙は「不要」とされるかもしれないと思ったことさえあった。
生きるだけの人はあらゆる面で興味を失い、街は対立の温床になるのか。NYはそんな「実験場」のようでもある。
感染の収束は見通せず、長いトンネルが続く。こんな時に必要なのは癒やしであり、攻撃ではない。和紙の模様は水によって流された繊維が形作る。水の流れは人が決められない。受動的かもしれないが、その「受け入れる感触」が求められると思う。
私ももう一度「9・11」後のNYを思い出し、作品やその空間作りに励んでいきたい。
小平 伸浩さん(新潟市東区出身)
(小平さんは1960年生まれ。新潟南高校を卒業後、91年よりNY在住。和紙の魅力を伝えるデザイナー・作家として「Hiro Odaira」の名で活動しています)